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三賢者とセンチメンタルな生徒

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昨日、2月2日木曜日、恵比寿に行ってきました。
写真美術館で催されている『植田正治写真展』とウッディ・アレンの『僕のニューヨークライフ』を見るためです。
非常に好きな二作家の作品を一日で鑑賞できるなんてこういう日もあるんだなぁ、なんてワクワクしながら、ガーデンプレイスに続く長い通路を『エクササイズ!』を心の中の合い言葉に、動く歩道を使わずに早歩きでスタスタと。


まずはウッディ・アレンの『僕のニューヨークライフ』から。

人生と表裏一体である所の恋愛。時にモチベーションとなり、時に盲目にさせる恋愛。
その情熱と失敗を繰り返して成長していく過程を綴っているところが『21世紀のアニーホール*』と思わせている所以だろう。
しかし、『アニーホール』ではウッディ・アレンが独りもがいていたのに対して、今回の映画の主人公には『偉大なる教師』が助言を与えているのだ。その『教師』こそがウッディ・アレンそのひとなのである。
彼は映画を通じ、次世代に向けて惜しみなく助言を与える。
皮肉っぽいが、示唆に富み、洞察力にあふれ、多くの教訓を内包している簡潔で明瞭な言葉(ジョーク)を。
彼はいつも彼を必要とする者の前に現れ、与え、人生の意味を諭す。
散々と長い悩みを打ち明けたあと彼は優しくこういうだろう。
『anything else**?(そんなもんさ)』と。

彼は天使なのだと思う。初老の無神論者であるけれども。

*『アニーホール』=1977年の映画。男女の出会いと別れまでを描いたウッディ・アレンの代表作。
**『anything else』=『僕のニューヨークライフ』の原題。

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そしてお昼を食べてからガーデンプレイスに併設されている東京都写真美術館へ。
植田正治は写真集も持っていて、機会があればプリントを見たいと思っていた作家。鳥取に『植田正治写真美術館』があるのだが、いつか砂丘観光と合わせて行ってみたいものだ。

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と、美術館の受付で『写真展 岡本太郎の視線』というのも開催されていることを知る。植田正治と合わせてチケットを買うと割引になるらしいので、岡本太郎も見ることにした。もうひとつベトナム戦争時のベトナムを撮った写真展もやっていたのだが、こちらは時間の都合で諦めた。
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そしてまずは岡本太郎の方から。

画家、前衛芸術家としての彼の日本を伝統を撮る写真家としての一面に焦点を合わせた写真展。
写真に出会った1930年代のパリ時代を写した同時代の作家たちの作品から始まり、彼が主眼をおいた1950年代の日本の伝統文化、なまはげや鬼剣舞、雪のかまくら、沖縄などを取材した写真が並ぶ。
写真はやはり美術家というともあり、衝動的であったり、大小の対比だったり、明暗の構成だったりするのだが、被写体はいたってオーソドックスで彼の視線そのものだ。
それは土着的でとても優しい。
力強く、優しい。彼を魅了した縄文式土器がそうであるように。


以下、著作『日本の伝統』より引用。

縄文式芸術の精神主義的でない精神のありかた、つまりあらゆる神秘や超自然のドラマが平気でそしてゆたかに生活にはいりこんでいる。しかも積極的な現実性をもって。それはすこしも観念的ではないのです。

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そして『植田正治:写真の作法』へ。

緻密な構成とユーモア。クールとウィット。一見相反するような要素を持ち合わせた植田正治の写真の根底を支えているものもやはり『優しさ』なのだと思う。被写体と空間を同化させ新しい存在意義を引き出す優しい眼差し。

彼の写真は僕にとって『気持ちよさ』なのだ。とにかくゾクゾクするほど気持ちがいい。
脳内の不純物がリセットされていく感じ、記憶の断片化が解消され、パズルが組み上がっていく感じがするのだ。
(例えば『リアル』であることも含めて)装飾をそぎ落とし、彼の中で再構築された画面から僕は『温かい秩序』を見出すのだ。

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三作品を鑑賞して、僕は『優しさ=誠実さ』であると再認識したのだ。

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『恋する男は己の能力以上に愛されたいと願望する人間だ。それがすべての恋をする男を滑稽にする。』
──シャトーブリアン『格言と省察』

その日の夜、僕は外食をして『アニーホール』的経験を体験しセンチメンタルな気分で家路につく。ははは、むしろ『マンハッタン***』のようでもあるなぁ。

情熱と失敗。後悔はしない。過去の全ての選択は成長の糧であると信じることが大切だ。

『現在というものは、過去のすべての生きた集大成である』
──カーライル『随筆集』


***『マンハッタン』=1979年のウッディ・アレンの映画。W・アレンの作品中、僕が最も数多く見た作品。
by waterweek | 2006-02-03 10:34 | art
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